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英文修正 人生の後半を生きる

 

 無理をしないということは、理に反しないということ、言いかえると、理に従うということです。春になれば花が咲き、秋になれば葉っぱが散る。草も木も、芽を出すときには芽を出し、実のなるときには実をむすび、枯れるべきときには枯れていく。人間も自然のなかで生きている限り、この天地自然の理に従った生き方、行動をとらなければなりません。といっても、それは、別に難しいことではない。言いかえると、雨が降れば傘をさすということです。
 雨が降れば誰でも濡れる。これは自然の理ですね。しかし、傘をさせば濡れないですむ。これも自然の理に従った姿です。おかげで、雨にも濡れませんし、風邪もひかない。
 それは誰でもわかっている。ところが、実際の生活はもっと複雑ですから、ともすれば判断がこんがらがってくる。そして、雨の中を傘もささずに歩くような考え方をしたり、不自然な行動をとったりする。そこから、いろいろな間違いが起こってくるのですね。

出典:「無理ということ」『PHP』(平成元年7月号)

 こうしたことは、経営においても同様でしょう。松下幸之助は、「自分なり会社幹部の経営力を適切に把握し、さらには資金力、技術力、販売力などといった会社の総合実力を測りつつ、その範囲で経営を発展させていくことである。いいかえれば、無理をしないということである。そういう無理のない行き方を私自身はずっとしてきたし、それがどんな場合でも大切な考え方だと思う。そのように無理をせず、自分の力の範囲で経営を伸ばしていくというのは、いわば“カメの歩み”のごときものだといえよう。一歩一歩進んでいくその歩みは、一見遅いように思われるかもしれない。しかし、それはきわめて着実な歩みであり、とどまることも、後退することもない。遅いようでも、いつか気がついてみたら、ウサギに勝っていたというようなもので、結局成功、発展の一番の近道であるといえよう。」と述べています。自分や会社の経営力を見誤り、資金力、技術力、販売力など、会社の実力以上のことをしようとしても、うまくいかないのは至極当然のことだといえましょう。
また売りたい一心で無理をし、仕入れ値より安く売ってしまうとか、自分の能力以上の仕事をかかえ込むとか、あるいは他の人に対して物事を無理じいするなどといったようなことも問題です。それらは売るほどに赤字が膨らむことになり、かかえた仕事が処理し切れず大きな失敗を生み、さらに無理じいした人の反発を買い、ときに争いごとになることも少なくありません。
もっと身近なことでは、健康についても同じことが言えます。胃が重いとか、頭が痛いとか、少々体調が悪いにもかかわらず、それを軽んじて無理をすれば、病を悪化させることになるのは自明の理です。無理は必ず心身の健康に跳ね返ってくるのです。ときには取り返しのつかない結果を招くことにもなりかねません。健康第一。無理は禁物です。
もちろん、現実には一見無理を押してでもなさなければならないように見えることも起こってきます。しかしそれにしてもよく考えれば、理に適った取り組み方が必ずあるはずです。無理のない行き方が事を成し遂げるのです。
これは、月刊誌『PHP』の平成元年七月号に掲載されたもので、この年の四月、九十四歳の生涯を閉じた松下の遺稿の一つとなったものです。“無理をしない”、当たり前のことのようですが、きわめて大切なことではないでしょうか。

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