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英文修正 人生の後半を生きる

 

 ともすれば心に不満を持つようなことが再々あります。もう腹が立ってしょうがないというようなことで、この六十年を来たと思うんです。しかし、昨今になって考えますとですな、腹が立ってしょうがないということにとらわれておったならば、永久に助からんと。永久に不満を持って、不満居士としてあの世に行ってしまうということは、僕自身としてもあまりに情けないことである。同時にまた、各方面の方々に申し訳ない。こういうことにようやく気がつきまして、もう何事に関しても、まず感謝せないかんと。感謝と報恩の念でものを見、ものを聞き、判断し、そして今後も短い命をつないでいきたいと、かように考えるようになりました。
 それを考えるようになってからだいぶ気が楽になりまして、昨今は腹もあんまり立たないし、まあ気長にやっていくと。だんだんとこう、完全ではありませんけども、日一日と、そういう感じを持てるように自分はいたしております。

出典:定年退職者招待会での話(昭和五十三年十月五日)

 

これは、松下幸之助八十三歳、昭和五十三年十月五日に行われた、パナソニック(元・松下電器)の定年退職者招待会での挨拶の一節です。
人は、往々にして物事が自分の思うようにならないといっては腹を立てがちです。“もっと売ってもらわないと困る”、“これだけ彼のためにしてあげているのに、何のお礼もない”、“そもそも今の政治家は、自分の選挙のことばかり。国民のことをもっと考えるべきだ”など、仕事のことから身近な人間関係、さらには政治についてまで、腹を立てる種は尽きることがありません。
しかし、そのように腹を立ててばかりいたのでは、周りの人はたまりません。場合によっては腹立ち紛れに八つ当たりされねないと、何とはなしに敬遠するようになるかもしれません。それでは、せっかくの人生がつまらないものになります。そこで幸之助は、不足を言いだしたらきりがないとし、何を見ても結構、何を考えてもありがたいと思えるようになりたいと述べたのです。
ひとことで言えばそれは、「感謝報恩の精神」ということになるでしょう。「感謝報恩の精神」とは、昭和八年に松下電器の社員の心得として幸之助が定めた「松下電器の遵奉すべき精神」の一つに取り上げられているもので、この精神を本当に自分のものとして実践できるようになることが大切だというわけです。
とはいえ、不平不満はいくらでも出てくるのに、なぜか感謝する事柄はなかなか出てきません。たとえ言葉として取り上げることができたとしても、日ごろから意識することはなかなかできてはいないでしょう。空気や水、日の光といった自然の恵み、衣類や食料、立派な建物に、快適で文化的な生活を支えてくれる家電製品などを提供してくれる世の人々の力。心してみれば、実に多くの恵み、おかげで私たちは生きています。
さらにいえば、腹が立つようなことも見方によれば心の修行ともなります。またそうした事柄によって、自分の過ちを正すことになり、大きなまちがいを回避できているとも考えられます。腹が立つことだと思っていたものがむしろ感謝すべきことになるわけです。
そうそう思うようにならないのが世の中というもの。いちいち腹を立てながら生きていくより、気長に、愉快な気持ちで毎日を送るほうが、お互い幸せだと言えるのではないでしょうか。

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