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 人間の肉体の成長というものは、ある時期が来ると自然に止まってしまうものであろう。しかし、心の働きだけは、その人の心がけ次第でいくらでも伸びてゆくものだと思う。
そういう心の面から見るならば、いくら年が若くても、心の働きが鈍ってしまったような人は、もう老人と何の変わりもない。けれども反対に、どれほど年をとっても、月日とともにますます心がはつらつとして、豊かな判断力を備え、あふれるような希望にみちて精神が躍動していたならば、その人は常に若く、それなりに伸びてゆくと思うのである。
そういった心の成長こそが、人間としてのほんとうの成長だとはいえまいか。

(「心の成長こそ」『思うまま』)

 

2018年の日本人の平均寿命は、女性が87.32歳、男性が81.25歳で、どちらも過去最高となりました。女性は6年連続、男性は7年連続で記録を更新しています。また100歳以上の高齢者数も、前年より1489人増加して初めて7万人を突破。7万1274人になりました。100歳以上人口の増加は49年連続だそうです。しばしばこうした高齢化は社会問題の一つに数えられることが多いですが、昔から長寿は徳の一つとみなされてきました。私たちはたいへん幸せ時代に生きているとも言えるはずです。

実際に昔に比べて元気な高齢者が増えています。年を経てなお元気はつらつと活動している。新しい高層ビルができたと聞けば上りに行き、こちらに面白いコンサートがあると誘われれば喜んで参加する。ボケ防止と言いつつ新たな資格の取得を目指して勉強する人がいるかと思えば、高齢者施設を慰問するためにピアノやマジックを学ぶ高齢者もいる。たしかに医療が発達したことも一因かもしれませんが、決してそれだけではありません。経済的にある程度ゆとりがあることに加え、人生を有意義に全うしたいという意欲のある人が増えているとも考えられるでしょう。

もちろんすべての高齢者が意欲的で元気なわけではありません。年を経ればつい何事に対しても億劫になりがちです。新しいことを学ぶのも技術を身につけるのも、あるいは旅行に出かけるのも面倒になってきます。恐らくそうした人のほうがまだ多いかもしれません。そこへ心を若く保ち元気に生きようと言われても、暮らしぶりや生き方を変えることは容易ではないと思います。

しかし、だからといってただぼんやりと過ごすこともなかなか難しい。動かなければ体はどんどん衰えるばかりです。場合によっては、健康を害して寝たきりになり、病に苦しみつつ生き続けるなどということも起こってきます。やはり億劫がらずに適度に運動する、動くということが欠かせません。また、たとえ体が健康でも毎日ぼんやりと過ごしていたのでは、心の老いが進むばかりです。ついつい憂鬱な気分で過ごす時間が増えることになるでしょう。

せっかく天から与えられた時間です。その貴重な人生の時間を、死の直前の一瞬、一息まで、精一杯喜びと感謝にあふれながら生きることのほうがより好ましいのではないでしょうか。

そうであれば億劫だの面倒だのと言っているわけにはいきません。重い腰を上げ、一歩踏み出してみることが大事です。子や孫、さらにひ孫に対して、老いの生き方の模範を教えるほどの気概を持ち、できることから始めてみることです。

周囲の友人や知人とおしゃべりしたり、見知らぬところへ出かけたりする。健康づくりに散歩を習慣化する。家庭菜園も結構。あるいはテレビゲームに興じるのも一つです。またスマートフォンやパソコンを使ってみる。すぐに使い方を忘れることもあるかもしれませんが、その時はまた勉強できる、教えてもらうよい機会ができたという程度に気楽に考えればよいでしょう。やってみれば意外と簡単だという人が多いようです。新しいことはハードルが高いというのならば、若いころに少しでも経験のあることをもう一度やり直してみる。書道であったりそろばんだったり、あるいは絵画であったり音楽であったり、何十年も生きていれば何か少しでもかじったことがあるはずです。懸賞に応募することを日課にしている方もいます。当たれば喜びになります。不要なものが当たったなら、必要な人に差し上げてもいいでしょう。そうした何でもないこと、できることから始めてみる。わくわくしてこないでしょうか。

人に迷惑をかけたくないという思いをお持ちの方がいますが、誰もが通る道です。迷惑をかける姿を見せることも、若い人への良いお手本になるとでも考えればよいかと思います。

老いは生きとし生けるものすべてに与えられた運命であり、肉体が衰えることは自然の摂理です。少なくとも今日、それを止めるすべを私たちは持ち合わせていません。しかし、その衰えを緩やかにする努力はできるはず。加えて、心の持ち方次第では、年齢ばかり若く覇気のない生き方をしている人よりも生き生き若々しくあることができるはずです。そうした心がけをもってたえず日々を送り続けるならば、日に日に成長しつづけることにもなるでしょう。

お互いに老いに臆することなく、身も心も若々しく天与の長寿を全うしたいものです。

経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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