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英文修正 人生の後半を生きる

 苦労は身の毒やということいいますけれど、必ずしもそうやないでしょう。ある程度苦労をすると長生きするんやないでしょうか。苦労も何もなくポカーンとやってると、頭ぼけてしもうて早く死んでしまいますよ(笑)。だから、ある程度苦労は必要ですね。
 心配とか苦労を意識しないほうがいいとはいいますけれど、人間はちゃんと意識するようになってるんです。だから適当に苦労があれば、身の幸せですね。全然ない人は気の毒です、ほんとうは。私は適当に苦労し、適当に心配してるんですよ(笑)。
 カッとする場合もありますけれど、カッとするときには、今まではカッと怒ったものです。けれどこのごろはちょっと元気なくなりましたから、多少辛抱できるようになったんです。
 商売を熱心にやって、命をかけていたら、ある場合にはどなることも自然起こりますよ。それをこらえる人はよほど聖人か君子ですね。皆さんのような若い人で、そんなことやる人は聖人君子すぎて、結局、力がないということでしょうな(笑)。

出典:「大阪市工業会連合会 青年経営研究会創立5周年記念講演会」(昭和42年11月14日)『松下幸之助発言集3』

 

現役時代はたいへん元気で生き生きしていたにもかかわらず、定年退職した途端、老け込んでしまう人がいます。たとえば、そう何年もたたないのに、何となく生気が感じられなくなっている。話題といえば昔のことばかりで、政治や経済、あるいは社会について新しいことはほとんど知らない。場合によっては家に引きこもり、外の世界とあまり関わろうとしなくなっている。
人生八十年といわれるようになって随分たちます。不幸にも若くして亡くなってしまう人を考慮すれば、今はもう人生百年とさえいえるかもしれません。そうした時代に、六十歳を過ぎただけで老け込んでしまうのはあまりにももったいない話です。やはり、いつまでも生気に溢れ、溌剌と生きてこそ、人生はより豊かになるにちがいありません。
娯楽や趣味を楽しむ。それも一つの行き方ですが、まだ体力も能力もある人が、ただそうして遊んで過ごしているだけというのは、社会にとって大きな損失です。できることならば、無理のない範囲で社会のためにもうひと働きしよう、というくらいの意欲をもつことが望ましいといえるでしょう。働くとなれば、せっかく解放された仕事の緊張やストレスに再びさらされることになります。「そんなことは御免だ」という方もおられるかもしれません。しかし適度な緊張やストレスは、心身に好ましい影響を与え、長寿につながるという見方もあります。 「もし、何の心配も不安もない安穏な生活というものがあれば、それは一面にしあわせであり結構のようにもみえる。しかし、そういう状態からは意欲は起こらないし、物も生まれてきにくい。平穏無事な環境が続けば、いつしかそれに馴れてしまい、自分の実力も向上しない」
これは、松下幸之助の著書『その心意気やよし』の一節です。現役としていま仕事に取り組んでいる人に向けて記されたものですが、現役を離れた人にも十分当てはまる言葉ではないでしょうか。自分の成長、能力の向上は、何歳になろうと喜びのもと。それが、一面、心配や不安から生まれるというのです。
もちろん、過度の心配や不安は心の重荷となり、心身の健康を害しかねません。だからこそ、幸之助のいうように、適当に苦労し、適当に心配するということが大切なのでしょう。お互い、適度の苦労、心配は長生きのコツと受け止め、一日一日を前向きにおくりたいものです。

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