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英文修正 人生の後半を生きる

年には勝てないということも、ついこのあいだ感じたんです。最近、月の半分は病院へ行って暮らしているんです。会社のそばに病院があって、便利ですから。その病院で朝起きて、ベッドから下りたんです。そしたらフラフラとして、タタと後ろへ二、三歩よろけたんです。それで、そばにある椅子のふちにつかまって、止めようと思っても止まらないんです。そのままストンと後ろ向きに倒れました。倒れてガタンと当たったところがガラスですね。それで止まったんですけれども、ガラスが厚いからよかったんです。薄いガラスなら、バンと割れてますわ、割れたらガーッと切れてますわ。で、きょうは皆さんに話できてませんわ、これ(笑)。
まあ運がよかったんですな。だからもう一ぺんやってやるんだと思うんですけれど、やはり年には勝てないということを、このあいだ初めて知ったわけです。ですから、やるにはやっても、年寄りにふさわしい状態においてやらないといかんなと思っています。

出典:「東京電力労働組合 東電労組第二十回大会記念文化講演会」(昭和50年7月4日)『松下幸之助発言集5』

 

どんなに頑健な人でも、年齢を重ねれば、若いころと同じようには身体を動かすことができなくなってきます。こうしたことを申し上げると、高齢者に限った話のように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、働き盛りの三十代、四十代の人でも、子どもの運動会のリレー等に参加した際、思うように身体が動かず、足がもつれて転ぶというようなことがよくあります。もちろん運動不足がその一因になっているともいえますが、やはり年齢も大きな要因の一つといえるでしょう。体力の向上や維持のための運動、適切な食事と生活習慣、一時流行した脳トレーニングなど、いろいろとアンチエイジングに努めることで、ある程度若々しさを保つことはできます。しかし昔からよくいわれているように、「年には勝てない」ということはまぎれもない事実ではないでしょうか。
ところが、ともすると私たちは、自分の年齢を顧みず、若いころのつもりで物事をなそうとしがちです。前述のリレー等の例などまさしくその一つです。また、二、三日徹夜しても平気だったのは体力があふれていた二十代のころまでで、いま同じようなことをすれば作業効率は落ち、場合によっては、その後で体調を崩して何日も寝込んでしまうということになりかねません。あるいは、身近なところでは、以前は楽々持ち上げられた荷物を、同じ力がまだあるつもりで持って運ぼうとし、腰を痛めてしまうというのもありがちなことでしょう。
松下幸之助は、晩年、「青春とは心の若さである。信念と希望にあふれ勇気にみちて日に新たな活動をつづけるかぎり、青春は永遠にその人のものである」という言葉を座右の銘としていました。そしてこの言葉の通り、若いころと変わらず、あるいはそれ以上に活発に、さまざまな活動に取り組み続けました。その働きからは、ベストセラーとなった多くの著書、日本の未来のための人材育成機関である松下政経塾の設立といった成果が生まれています。とはいえ、思いや心持ちは若々しくても、どうしても身体はついてきません。幸之助にしても、無理をすればかえって健康を損ね、それらの思いを遂げることはできなかったでしょう。
信念と希望を失わず、勇気にみちた心をもちつつも、いざ事に当たっては、意識して年相応の取り組み方をすることが大切です。そうして初めて、お互い年齢を経ても、夢や思いを成し遂げることができるのではないでしょうか。

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