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世の中には、他の人から見ればまことに結構な身分でありながら、自分では不幸だ不幸だと思っている人が案外多いようだ。本人はつきつめて真剣に考えた上でそう感じているのだろうけれども、それはやはり、心が先細りになっているというか、狭い視野からしかものを見ない、いわゆる心の貧しさという面があるからではなかろうか。
いろいろな角度からいろいろな見方に立って、自分の生活をもう一度見直してみるのも有意義なことだと思う。

(「見直してみる」『思うまま』)

 

経済、人縁、運などを個別に比べれば多少の差はあるかもしれません。しかし大きな視点から見れば、概して私たちの多くはたいへん恵まれているといってよいのではないでしょうか。

例えば、日本人の多くは、生まれながらにして衣食住がある程度満たされています。着るものがあり、食べるものがあり、住む場所もある。これだけでもとても恵まれているはずです。悲惨な戦争や紛争により、いずれもなかなか手に入らないという人が、世界にはたくさんいることは誰もが知るところです。

水一つとっても、日本ではいろいろなところできれいな湧水が出ます。水道水もミネラルウォータと見分けることができないほどおいしくなっています。国によっては、このような安心して飲める水がなかなか手に入らないところが決して少なくありません。

食べ物に関して言えば、ほとんどの人が困ることがありません。むしろ日本では大量に廃棄される食品ロスのほうが大きな社会問題となっています。いまなお世界には飢えに苦しむ人々がいます。そのことを考えるとこれは今後より大きな問題になるでしょう。

着るものも住む場所も、普通に働くことさえできれば手にすることはきわめて容易です。

社会福祉も充実しています。仕事がない、働くことができないという場合でも、最低限の暮らしができる支援があります。

もちろん一定水準の教育を受ける権利も保証されています。読み書き計算はもとより、社会に出て働くために必要な教育はしっかりと受けることができます。夜になると塾の前で子どもたちを待つ車が列をなしています。より高度な教育の機会も提供されているのです。一方、世界を見渡せば、十分な教育を受けることができない子どもたちがまだたくさんいます。教育を受けることができなければ、よりよい仕事に就くことができず、暮らしの向上もなかなか望めないでしょう。

さらにそうした生活だけではなく、テレビ番組やコミック・アニメーション、映画、遊園地、テレビゲームなどのエンターテーメントも充実しています。人生をより楽しく充実して送ることができる様々なものが提供されています。世界中を見回してみてもこれほど恵まれた国はそうはないと思います。

こうしたことは、もちろん多くの人が知っているにちがいありません。説明すれば、自分たちはたいへん恵まれている、運が強いというのではないでしょうか。

しかしわかってはいても、不運だ、不遇だと、ついつい不満が口をついて出てきます。恐らくそれはお互いの欲望が原因でしょう。今よりももっと豊かに、もっと楽しくと望む。隣の家の人が大きな車を買ったら我が家でもほしいと思う。まったく私たち人間の欲には際限がありせん。“足るを知る”ということが大事であると昔から言われていますが、そうした境地にはなかなかたどり着けません。いきおい心は乱れ、いつも何となくいらいらしている。恵まれているのにそれでは、何とも残念な状況といわざるを得ません。

足りないものを得ようと努力する、人間の欲望をうまくコントロールして力に変える。そうしてお互いの暮らしをさらによいものにする。これはとても大事なことです。欲望はなくしてしまってはいけないにちがいありません。しかし一方で、180度見方を変え、どれほどお互いが恵まれているかということについても深く思いをはせることが大事でしょう。恵まれている自分の姿を十分に知ることで、心が豊かになり気持ちよく毎日を生きていくことができます。

恐らく“さらに豊かに”という思いと“こんなに恵まれているのはありがたい”という思いを、バランスよく持っていることが大切なのでしょう。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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