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一人の人間が生かされてゆくためには、直接間接に多くの人びとの協力、助力がいる。つまり、われわれが今日こうして生きていられるのは、自分一人の力ではない、世の多くの人びとのおかげがあればこそである。
それに気づいて感謝の心をもつかどうか。それができる人こそ、ほんとうに豊かな心の持ち主といえるであろう。

(「豊かな心」『思うまま』)

 

生きることはとても大変です。何ら苦労することなく、悩みもせず、また努力もしないで生きる。それは無理な話です。傍からすれば悩みとは無縁、苦労知らずに見える人でも、軽重、大小の別はあるにしろ、みな等しく悩み、努力しているにちがいありません。そうであればこそ、自分は努力している、頑張っていると、多くの人が相応の自負心をもっているはずです。

この自負心というのはきわめて大事な心であり、これをもたずに生きていくのはとても苦しいことです。頑張っている自分を認めることができない。言い換えれば自尊感情や自己肯定感、自己効力感がない。それではつらくて当然でしょう。やはり大いに自分の頑張りを認め、努力を誉め、自負心をしっかり養っていきたいものです。

しかし人によって、この自負心が強くなりすぎる場合があります。例えば、あげた成果、成功はすべて自分の力だと考えてしまう。自ずと自尊感情、自己肯定感、自己効力感もことさら強くなります。その結果、わずかでもそうした思いに反する他人の言動については、過剰に反応し、攻撃的になったり自分を大きく見せようとしてしまいます。さらに事実を都合のいいように曲解しがちにもなります。これでは当人も生きづらいでしょう。周囲にとっても迷惑です。成功は全部自分の力のおかげ、失敗は他の責任、そう考えている人は周りからすると面倒な存在です。

人それぞれの努力、頑張りは欠かせません。また相応の自負心をもつことも大事です。特に近年、自尊感情や自己肯定感、自己効力感が低い人が増えているのではないかと問題視されています。自負心を養うことは欠かせないのです。しかし一方で、自分が生きる上で、大きな力になっている周囲の力にも思いをはせる必要があります。

等しくすべての人が大自然から、空気、水、光などの恩恵を受けています。先人の多大な尽力によって成し遂げられた豊かさを享受してもいます。もっと身近であれば、家族、友人、知人、職場の同僚やお得意先等などから、多くの協力、支援が寄せられてはじめてお互いの暮らしが成り立っています。ありきたりですが、一言で言えば自分の力だけで生きている人は一人もいないのです。それどころか、自分の力はほんの一部で、ほとんどが他のおかげ。謙虚にその事実を受け止めることがお互いのより良い暮らし、人生のためには欠かせないのではないでしょうか。

もっとも、頭では“自分は恵まれている、支えられている、ほぼ他のおかげだ”ということは理解できても、自分を顧みると心からそう感じるのは容易ではないかもしれません。他からの助力、支援、あるいは恵みにはなかなか気がつかず、ついつい足りないものにばかり目が行き、愚痴をこぼしてしまう。情けない話ですが、それが現実の姿である気もします。

ここで大切なのが、どれだけ自分が他のおかげで暮らし、人生を送ることができているかを、折々に自ら意識して見つけるようにすることでしょうか。初めはなかなかうまくいかなくても、毎日の積み重ねで少しずつ身につくようになると思います。そしてさらに私たちが生きているこの世界、社会に対して感謝の心を持つことが当たり前にできるようなれば、人生は驚くほど豊かになり、生きていくことがありがたく楽しいものになるように思います。

皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。

経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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