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どういう仕事をするにしても、今日はスピード時代であり、物事が時々刻々に移り変わっているということをよく自覚していなければならないと思う。さもないとよい考えでも、実行に移そうと考えているうちに周囲の情勢が一変して時機を失するということにもなりかねない。
きょう考えたことは、すべてその日のうちに実行するというぐらいの心構えをもつことも一面に必要であろう。

(「その日のうちに」『思うまま』)

 

 

ともすると私たちは、「新しいことを学ぶのは面倒だ」「難しそう」「自分には力が足りない」、またよく耳にするのが「もう年だから」などと言って、時代の変化への対応に必要な学びや成長を避けがちです。今でこそパソコンができるのは当たり前ですが、私が社会人になったばかりのころは、ワープロ(ワードプロセッサー)専用機の操作方法を学ぶことでさえ面倒に思い、すべて部下に任せている上司がたくさんいました。どれほど便利であるとわかっていても学び、使いこなせなければ価値がありません。

近年はグローバル化の進展にともない英語やプレゼンテーション能力等の必要性が高まってきました。それを身につけることで仕事の幅が広がるとわかっているにもかかわらず、学ぶことを最初からあきらめている人が随分います。便利なスマートフォンの使い方にしても、何かにつけ若い部下に何度も同じことを聞く先輩、上司もしばしば見受けられます。さらにキャッシュレスの時代に移行しつつあるにもかかわらず、使い方がややこしそうで今もって現金主義の人もいます。近いうちにAIやIT技術の進展によって、驚くほどのスピードで社会状況は変化するはずです。乗用車のみならず農耕機などの自動運転化、診断や手術、カウンセリング、授業などの遠隔対応化、在宅勤務において活躍するテレビ会議システム等など、私たちが考えている以上の速度で様々なことが急激に変化し、それに即応していくことが強く求められるわけです。ITの革新のスピードを表す、ドッグイヤー(人間の7年が犬の1年に該当。これまでの7倍速く移り変わることの比喩)という言い方がありますが、今日の変化はマウスイヤー(18倍で一年が過ぎる)さえ上回るほどのスピードです。

こうした変化に振り回されないで、自分は今まで通りやっていてくという方もいるかもしれません。たしかにそれも一つの行き方でしょう。不易流行といいますが、変化しないということも場合によってはとても大切です。しかし私たちの社会、あるいは人類という視点で考えると必ずしもそうはいきません。変化に対応しない、あるいはできないのはたいへん危ういことだからです。

例えば、地球上の環境はたえず変化してきましたが、それぞれの環境に適応できない生命の種はみな滅んでしまいました。恐竜やマンモス、また化石でのみ発見されるような多様な生き物たちはその証です。進化とは生命の新たな環境への適応の歴史ともいえます。環境への対応は、種の存亡にかかわる一大事なのです。

このことは、社会においても同様です。リスクがあるにしても、例えば社会を構成する人々全員がキャッシュレスへ対応できれば、どれほど便利で効率的な社会生活が営めるようになるでしょうか。そもそも現金を製造する必要がなくなる分だけ、国家予算も軽減されるはずです。もちろん国内だけの問題ではありません。諸外国との競争で対等にわたりあっていくためにも欠かせない仕組みでしょう。そう考えると、いかに時代の変化に俊敏に対応できか。それがきわめて重要だとわかるはずです。

ここで大きな問題になってくるのが、先ほど述べた変化のスピードです。驚異的なスピードで変わっていくため、柔軟に対応することが以前よりとても難しくなってきました。製品のライフサイクルが短くなっていることは多くの人が実感しているはずです。家電製品、自動車、その他の工業製品などは、毎年アップグレードしていかないとあっという間に市場から忘れ去られてしまいます。またアップグレードするための技術開発ができなければ、遅れた企業とみなされ、ブランドイメージまで損ないかねません。導入期、成長期、成熟期、衰退期というサイクルの中で、全体が短くなっているのは当然ですが、特に後ろの二つの期間がきわめて短くなっています。製品だけではありません。事業モデルなども次々と変わってきています。柔軟性やスピード感が弱い大企業等は、特にこうした早い速度で変化する時代を生き残っていくのが難しくなってきているように見受けられます。

さらに、ただ環境の変化に対応するだけでなく、新たなものを生み出し社会で活用してもらえるようになるためにはスピードが勝負のポイントになります。とある問題への画期的な解決策を見つけたと思ったら、同じことを考え付いた人がほかにもいたとか、斬新なアイデアをもとに製品を開発したと喜んでいたら、なぜか同時期に似た製品を生み出した人が他にもいたなどという不思議なことが、世の中ではわりとよく起こります。例えばグラハム・ベルは電話の発明で有名ですが、同時期に多くの人が電話を開発しています。今日、アマゾンがネット通販の大手ですが、その仕組みは決してアマゾン独自のものではなく、以前からすでに存在していました。要は新しいものを生み出すスピード、世に出すスピード、広げるスピード等などが大事になっているのです。

時代の変化にすぐに対応する、場合によっては半歩、一歩先取りするほどのスピード感で進めていく。このことは、人はもとより企業等の組織でも欠かせません。お互いに「いまできることはいまする」の心構えで努めていきたいものです。

 

経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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