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われわれは規則というものを定めてお互いの秩序を保ち、住みよい社会をつくろうとしている。そのことは非常に大事であろう。
しかし“角を矯(た)めて牛を殺す”ということばもある。規則が必要だからといって、あまりに多くの規則をつくって、がんじがらめにしばってしまうとかえって息苦しくなり、お互いの自主性も損なわれてしまうことになりかねない。そういうことでは、伸び伸びとした生活や活動ができなくなってしまうのではないだろうか。

(「必要以上の規則」『思うまま』)

 

明文化されているかどうかに関係なく、人が集えばルールが必要になります。例えば盗まない、傷つけないなどは、わずか二人の集団でも欠かせないでしょう。こうしたルールが守られないとなれば、とても人間関係は維持できません。さらに人が増えるほどルールは増えていきます。国には憲法を中心として数多くの法律があります。それは日々の生活が豊かになるだけでなく、平和に幸せに国民が暮らせるようにするためです。さらに企業や諸団体にも組織の維持や従業員に課せられている規則があります。国家間においても同様です。条約という形をとる場合に限らず、不文律のルールが実にたくさんあります。そしてこのようなルールは社会の複雑化、高度化、グローバル化に伴い、たえず増え続けています。この傾向は、お互いの安心、安全、生活の向上、発展を目指す限り、致し方ないことかもしれません。

しかしルールが増えれば増えるほど、私たちの暮らし方や生き方から自由さや柔軟性が失われがちになります。あれをしてはいけない、これもしてはいけないと言動を縛られれば、思うように身動きができなります。それはお互いにとって好ましいことでしょうか。

多くの人が一度は考えたことがある校則問題はわかりやすい一例でしょう。校則は本来、生徒や学生が健やかな学校生活を送るとともに、人間としての学び、成長を図っていくために必要なルールをまとめたものです。しかし、世の中が多様な個性や価値観を尊重するようになるにつれ、社会と校則との間にズレが生じるようになります。その結果、生徒、学生と学校側との間に軋轢が生まれ、一時期は全国的に多くの対立や問題を引き起こすことになりました。中でも私が印象深く記憶しているのは、女子生徒のスカート丈や髪の毛の長さ、男子学生の学生服の長さや襟の高さなどを物差しで測り、その場で教師が脱がせたり切ったりして、ルールの厳格な順守を強制していたことです。何でも自由にしてよいとは思いませんが、ルールにもある程度の幅があり、その中で揺れ動きつつ悩み、考え、主体的に子どもたちに選択させることが教育なのではないかと今さらながらに思います。ところが、当時としては非行の問題も絡み、簡単に解決できそうもない雰囲気でした。結果として、校則が子どもたちを守ると同時に縛り付け、息苦しい学校生活を生み出していたという一面は否定できないのではないでしょうか。

ルールは、言うまでもなく私たちがより豊かに平和で幸せに暮らすために作られたものです。それが複雑で数多くなり、私たちをがんじがらめに縛り付け、暮らしを息苦しいものにしてしまうようではやはり本末転倒です。

このことは昨今の私たちの社会でも起こり続けているような気がします。法律が増えつづけ、複雑化し、厳罰化しつつあるように思えるのは私だけではないでしょう。もちろんいずれも必要だから制定されたりしているとは思いますが、それがかえってお互いの生活の自由さを失うことになっているとすれば、どこかで人ははじけたような言動をとってしまう気がします。ルールには自由を抑制する一面があるだけに、どうしてもストレスを高めてしまいます。それが積もり積もればどこかではけ口を探す。それが行動だけでなく言葉やネット上の書き込みによる暴力となって表れているとしてもおかしくはないでしょう。

また、悪意があれば、どんなに厳しい法律を作ってもその隙間を抜けて悪事を働く人が出てきます。その隙間を埋めようともっと厳しい法律を作ったところで、やはり隙間を見つけては社会に問題を与える人が出てくる。まさしくいたちごっこです。さらに、ルールに従っていれば十分だというように考えてしまう人も少なくないでしょう。そうなってしまうと、対立して嫌な気分を味わったり、何かと苦労してまでルールを超えたことを考え、チャレンジすることはなくなります。つまりルールが増えることで、自立心、自律心がともに失われていくことになりかねないのです。

大事なことは、お互いの人間としての成長です。それがあれば、自立心、自律心がともに養われるのみならず、ルールもシンプルでお互いが伸び伸びと暮らせるようになり、さらに社会の発展も進むにちがいありません。あれがだめ、これもだめとルールでがんじがらめにするよりも、お互いを高め合っていくことに努力を傾け、心身ともに成長しつつ、より進歩した社会づくりにつなげていきたいものです。

 経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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