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苦しみが残していったものを味わえ!

苦難もすぎてしまえば甘美だ。

(『ゲーテ格言集』)

 

人は、苦しいときほど真剣に深く悩み、考え、全力を尽くします。そのときの気づきや学びはきわめて印象深く、しばしば私たちの根本的な価値観の形成に影響を与えています。お互いの過去を顧みたとき、やはり最も心に残っているのはたいへんな逆境や苦難ではないでしょうか。

また価値観、ものの見方考え方が変われば自ずと人生も変わらざるを得ません。つまり苦しみの中で気づいたこと、学んだことは、人生の指針として何にも代えがたい貴重な財産になっているわけです。

もっとも、逆境や苦難から学んだことが、厭世的、虚無的、悲観的な見方に染まっていたならば、それらはかえって人生を誤った方向に導いてしまいます。妬みや僻み、恨みといった負の感情が肥大化し、心を病んでしまうことも少なくありません。等しく苦しみから学ぶとしても、どのような見方、考え方に気がつくかがきわめて大切で、しっかり反省すべきは反省し、改めるべきは改め、学ぶべきは正しく学んでこそ、豊かな人生の糧になるといえます。

ゲーテは恋多き人物だったようです。詩人、劇作家、小説家としていくつもの作品を遺しています。優れた感受性が激しい情動をわき上がらせ、それに突き動かされるままに恋に落ち、その中から優れた作品を生み出していたのでしょう。しかしその才能は諸刃の剣ともいえます。優れた作品を生み出すエネルギーとなる一方で、絶えず心は大きく波立っていたに違いありません。そもそも名言、格言を数多く遺している点から、いかにゲーテが苦しみ、悩みつつ生きていたかが推し図られます。

苦しみから何かを学び、人生の糧にするというのは、ゲーテに限ったことではありません。私たちもまた、苦しみ、逆境や苦難を素直に受け止め、謙虚に学ぼうとするならば、たいへん多くの意義あるものを得ることができるはずです。

もっとも、こうしたことをいままさに逆境のさなかで苦しんでいる人に訴えたところで心には響きにくいに違いありません。“わかったふうなことを言わないでほしい。いま苦しいのだ”と言われればどうしようもありません。ただ「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の格言やシェークスピアの『マクベス』に出てくる「明けない夜はない」など、絶望しそうな心をそっと支えてくれる言葉がたくさんあります。多くの人が、同様の体験を味わいつつ苦しみを乗り越えてきたからにほかなりません。

苦難が過ぎ去り、ふと来た道を振り返るならば、きっとさまざまな思いが沸き上がってくるはずです。中にはもっとこうすればよかったというような反省があれば、悔いもあるかもしれませ。しかしじっくりと味わうならば、“よくぞここまで頑張りぬいたものだ”、“あのときに挫けなかった自分をほめてやりたい”、“嫌なことも苦しいこともたくさんあったがすべて良い思い出、生きる糧になっている”などと感じられる面もあるのではないでしょうか。

人生は有限です。そこには良いことも悪いこともすべてつまっています。それを人生の終わりに際して顧みるならば、おそらくどんな些細なこともすべてが愛おしい人生の一コマになるように思います。

いまを精一杯生ききる。良い時も悪い時も一日一日を大事にする。そうした日々の歩み方が、苦しみさえも学びの糧、味わい深い思い出とし、人生を彩り豊かなものにしてくれるのではないかと思います。皆さんはいかがお考えでしょうか。

 

経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

 

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