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災難に逢う時節には災難に逢うがよく候

死ぬる時節には死ぬがよく候

是はこれ災難をのがるる妙法にて候

 (江戸時代の禅僧・良寛『良寛全集』)

 

本年ほど災難が度重なった年はないように思います。新型コロナウイルスの世界的な蔓延、それに伴う医療崩壊の危機、経済活動の停滞と倒産企業の増加、さらに豪雨による広範囲にわたる水害、体温を上回る暑さに起因する熱中症等など……。まだこれからも何か起こるのではないかと不安がつのります。

誰しも災難には遭いたくないでしょう。しかしそうはいきません。台風、豪雨、津波、地震、土砂崩れ、火山噴火など、数え上げれば被害の大小はあるにしても人は何かしら体験しているはずです。

天災だけでなく人災などもしばしば私たちを苦しめます。交通事故や犯罪に巻き込まれたり、収入の低下や職を失うなども災いの一つでしょう。とりわけ戦争は、人災の中でも最悪のものだと私は考えています。

また災いで困るのは、家が倒壊したとか川が氾濫したなどの具体的事柄だけではありません。突発的で切迫した事態に少なからず心理的にも追い詰められます。新型コロナウイルスの蔓延でどれだけの人が精神的に弱ったかわかりません。

“天災は忘れたころにやってくる”と言われるように、虚を突いてくる災いを避けることはできません。とはいえ、絶望したり諦めたりするのは早計だと言えます。打つ手がないわけではないからです。

たとえば近年の天気予報の進歩には著しいものがあります。以前であれば台風が来てから対応をしていたことが、今では随分前に予測し、対策を打てるようになっています。地震や津波にしても、いまだ不十分とはいえ事前に警報を発することができるようになっています。つまり、天災に対しては、ある程度準備しつつ心づもりができるわけです。今後の技術の進歩によって、多くの災害に対して最小限の被害で済ますことができるようになるのではないでしょうか。

一方、人災については、まだまだ人心が成熟していないため、国家間のいざこざや地域社会でのトラブルなどはたえず起こっています。また地球的規模の温暖化なども人災の一つです。もっとも、こうしたことはお互いの自覚と社会全体の教育風土の醸成ができれば、良くなる可能性があるはずです。まだやりようがあると私は信じています。

さて、ここまでいろいろ述べてきましたが、災いにおいて一番困るのは人の心が折れしてしまうことだと思います。災害によって被害を受けることは致し方ないとしても、そこから立ち上がり、さらによりよい繁栄を築こうとする力強い意欲がなくては生きていくことができません。ところが、往々にして私たちの心は、どうしようもない災いについてあれこれ思い悩み、恨み、落ち込み、天を呪い、物に当たり、人に当たり、泣き叫び、わめきちらし、ありとあらゆる罵詈雑言を吐いたあげく、心が折れて意欲を失うことが少なくありません。

大切なことは、気持ちを少しでも切り替えて前向きに歩き出すことです。松下電器(現パナソニック)は、1934年の室戸台風で甚大な被害を受けました。その惨状にショック受けている部下に対し、松下幸之助は“こけたら立たなあかんねん。赤ちゃんでも、こけっぱなしでおらへん”と言ったそうです。転んだことをいつまでもくよくよしていても仕方がない。愚痴を言ったり埒が明かないことで思い悩む暇があったら、いま何をするべきか、これからどう対処するべきかを考え、即時実行せよということでしょう。

1828年の冬(良寛71歳)、新潟で1500人以上もの死者を出す大地震が起きました。今回取り上げた一文は、その折に良寛さんが親友の俳人・山田杜皋(とこう)に送ったお見舞い状の一部です。

明らめるという言葉があります。物事の真実の姿を明らかにするということです。あるがままの姿がわかれば、難しいことですが人の心は諦めるべきは諦められるようになるのではないでしょうか。さらになすべきことをなせるようになるのではないでしょうか。

この世界には私たちにはどうしようもないことがたくさんあります。その中には苦しく悲しいことがたくさんあります。それでも私たちは生きていく。私たちの命は、私だけのものではない。連綿と先人から受け継がれてきた天与のものであり、多くの生きとし生けるものによって支えられてはじめてここにある。そうしたことを考えれば、勝手に自分の都合で歩みを止めることは許されません。

良寛さんのこの言葉の真意は、私のような凡人には推し量ることができません。ただ個人的に感じるままを述べるなら、“災難も死も避けようがないもの。その真実をあるがままに受け止めることができれば、勇気をもって明日への一歩を踏み出せるものですよ”という温かな激励です。人の心に常に寄り添った名僧良寛さんらしい優しさにあふれたメッセージだと思いますが、皆さんはいかがお考えでしょうか。

 経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

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