LINEで送る

IMG_0164

人間の幸福は、決して神や仏が握っているものではない。

自分自身の中にそれを左右するカギがある。

(アメリカの哲学者 ラルフ・ウォルド―・エマソン『自己信頼』)

 

「神も仏もない」というのは、耐えがたい苦難に遭遇して、神様、仏様の慈愛に満ちた救いの手がないこの世の無情に対する嘆きの慣用句です。実際、神様に願っても自分の思う通りに事が運ぶことはほぼありません。仏様にどれほど懇願したところで、助けてくれることもまずないと思います。

それにもかかわらず、折に触れて私たちは神様や仏様にすがります。人間の力ではどうすることもできない事態に、無力感に襲われ絶望の瀬戸際に追いこまれ、残るのは超自然的な奇跡に期待する以外にないからです。神ならぬ身の人間としては自然な姿勢でしょう。

お釈迦さまがある村に立ち寄られた時、幼い男の子を亡くしたばかりの母親が遺体を抱えながら「子どもを助けてほしい」と半狂乱で懇願しました。これに対しお釈迦様は次のようにお答えになりました。「わかりました。とてもつらいことでしょう。それではかつてこれまで死人を出したことがない家を見つけてきなさい」これを聞いた母親は子どもが救われるのならばと必死に村中を駆け回ります。しかし死人をだしたことのない家は一件もありません。そうするうちに母親は、この世の無常、命のはかなさを悟り、ついには出家したそうです。お釈迦様であろうとも、死者を生き返らすという奇跡は起こすことができません。

それでは神様ならばどうでしょうか。宗教、宗派によっては、神様の力による奇跡の力をアピールし、信仰の大切さを訴えるところが少なくありません。とはいえ、実際に人間の力を超えた奇跡はほぼ起こるものではないと私は思っています。一見すると奇跡に見えるものも、おそらく本来何らかの合理的な理由があるのではないでしょうか。宝くじにしても、当たるべきときに当たる人に当たっているだけであり、是が非でも当選してお金が手に入らないと子どもの命が救えないという人に当たるわけではありません。

私たちが暮らすこの宇宙では、人の運命は神様や仏様が決めているわけではないと思います。信仰の度合いに応じてある人は救われ、ある人は見捨てられるということもないでしょう。水が高いところから低いところに流れるように、この宇宙は大きな法則に基づき、たんたんと変転流転しているだけです。人間のしかも個々人の思惑をいちいち忖度することなどないに違いありません。

神様や仏様の言動を、生き方の指針、弱い自分の心の支え等にすることはとても素晴らしいことだと思います。また死や死後に対する不安への心の支えとしても、大いに救い、助けになることでしょう。しかし、現実の世界でお互いの運命を切り拓き、幸福に暮らすためには、ほかでもないお互いそれぞれの努力が一番の力ではないかと考えられます。宇宙の原理原則に逆らうことはできませんが、できる範囲で多少の舵をとることで自らの運命を変えることはできるはずです。

船で急流下りをする際の船頭さんの舵のきり方はたいへん素晴らしいと言えます。何もしなければ岩にぶつかり船が大破してしまいそうなところを、うまく舵を右に左にきることで、岩場などの危険をさけ、乗っているお客さんを楽しませつつ安全に到着地点まで運ぶ。見事としか言いようがありません。同様に私たちは自分の運命という急流を、上手に舵を切って乗り越えていくことが大事で、そこに幸福への道も見えてくるのではないでしょうか。

また、私たちの心構えやものの見方考え方次第で、同じ状況を不幸とも幸福とも感じることができます。コップの中に半分ほど水が入っているのを見て、ある人は「もう半分しかない」と悲観的になる。しかし別の人は「まだ半分もある」と安心する。こうしたことはしばしば私たちの心の中で起こっているように思います。さらにいうと、受け止め方が違えば行動も変わってきます。行動が変われば結果も当然変わるでしょう。つまりお互いのあり方一つで不幸にも幸福にもなるのです。

人間の情として、神様や仏様にすがりたいときもあるでしょう。もちろんそれが悪いわけではありません。祈りたい、懇願したい、すがりつきたいときはそうすればよいと私は思っています。しかし、神様や仏様にすべて頼り切ったのでは、困難な事態、逆境は乗り越えられないでしょう。まさに“天は自ら助くる者を助く”です。

大切なのは、自分自身に何ができるかを問いかけるとともに、心構え、ものの見方考え方、行動を船の舵のようにきっていくことです。そこにこそ自分自身の人生があり、幸福への道もひらかれるように思います。懸命な努力から実が育ち、さらにそうした姿に感銘を受けた周囲からの助力があれば、きっと思う以上の成果を手にできると私は信じています。皆さんはいかがお考えでしょうか。

  経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

 

LINEで送る