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(スランプになったら)

よく食って、よく眠って、

ただ、待っているんだ

文芸評論家・小林秀雄著『考えるヒント』

 

 

つい先日まで調子よくヒットを打っていたのに、急に打てなくなってしまう。こんな場合、周囲も当人も「スランプ」に陥ったと説明することが少なくありません。スランプとは調子が悪い、不振というほどの意味ですから野球に限らずその他のスポーツでも起こりえます。また音楽、絵画、小説、脚本等の創作活動、さらに研究といった学際的な事柄、あるいは営業や経理等の私たちの日常的仕事においてもスランプはありえます。つまり誰にでもごく普通に起こりえるというわけです。

それではどうして突然にスランプになるのでしょうか。

原因はいろいろ思い当たります。たとえば、暴飲暴食による栄養バランスの崩れ、加齢による衰え、あるいは無理をすることによる過労ということもあげられるでしょう。生活習慣の乱れによる睡眠不足なども調子を悪くします。また何かのきっかけで起きる技術の微妙なズレ。私たちの仕事であれば、ちょっとしたミスを注意され、話し方から覇気がなくなったり、表情が暗くなったり、集中力が続かなくなるということがあります。それでは営業等の仕事がなかなかうまくいかなくなるのも当然です。加えてそうした状態が続けば心の変化等も起こってきます。落ち込み、悩み、神経質になる。できていたことがどうもうまくいきにくくなる。つまりこれらのことが複雑に絡み合って、スランプと言われるような状態になっていると考えられるわけです。

“何となくうまくいかない、スランプだ、早く調子を取り戻さなければ……”誰しも思うことでしょう。

そこで多くの人が、調子を取り戻そうと身体の不調を直す方法をいろいろ工夫するとともに、技術的な問題を一つひとつ確認、修正し、心を整え集中力を高めるよう努めます。スポーツ選手ならいつも以上に繰り返し練習をしたり、フォームのチェックを入念に行ったり、あらゆる面から心身のバランスを整える努力をして、いわゆるスランプからの脱出を図ろうとします。

とはいえ、練習を増やし努力を重ねればスランプから脱出、調子を取り戻すことができるとは限りません。どうも事はそう簡単ではないようです。通常の何倍も練習をしているのにやっぱり打てないということはいくらでも見受けられるからです。

頑張って練習してもなかなか調子が上向いてこない。場合によっては一層問題がこじれて調子を落とすことさえあります。

お互い人間の活動は、身体と心の総合的なバランスの上に成り立っています。そのため、スランプに陥った時、どこが問題なのか明らかにするのは容易ではありません。スポーツの場合、当人に合わないトレーニングで不要な筋力がつき、体の動かし方のバランスが崩れてしまうことがあります。身長や手足の長さが急激に成長して、うまくいっていた今までのフォーム、力の入れ方等では思うようにならなくなることだってあります。当人はいつも通りのスイングをしているつもりでもフォームが変われば以前のように打つことができません。成果を出してきた人ほどそうした悪い状態が激しいストレスになり、気持ちに焦りが出て打つタイミングが悪くなってしまうでしょう。凡打ばかりになればなお気持ちが落ち込み、筋肉に不要な緊張が走るようにもなる。そのためフォームがますますおかしくなり、まるっきり打てなくなってしまう。まさに負のスパイラルです。

こうなるともう何に手を付けてよいのかわからなくなってしまうに違いありません。

そんなときに効果的な方法の一つが、“なるようになれ”“なるようになる”と居直ること。その上でしっかり食べ、よく眠り、心の緊張が解けるまで普通に過ごすようにすることです。

生きていれば、どんな仕事でもうまくいかなくなることなどごく当たり前に起こります。そのたびにばたばたと足掻いたところで、かえって悪い方向に物事が進むだけとも考えられるでしょう。もちろん問題を探し、修正する努力を否定するわけではありません。そうした努力の一方で、ぐっと固まってしまった心の緊張を弛め、心身の調子を整え、じっくりあせらず自分自身が全体的に整のうを待つというのも大事なことではないかというわけです。

最近、調子が悪い、スランプだ、思うように事が運ばない。しかしそれも人生の一ページというほどに思い、ゆったりと構え、ときに休みながらお互いにそれぞれの道を着実に歩んでいこうではありませんか。

 経営理念研究本部 主席研究員 大江 弘

 

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